文具探しの一人旅

文具小説

文具探しの一人旅 season-2-6

第6話|ひかりの跡、甲府の蛍光ペン甲府の夏は、東京よりもひときわ眩しい。駅を出た瞬間、空の青さと日差しの強さに、目を細めてしまう。けれどそのまぶしさが、今の私にはちょうどよかった。なんとなく心がぼんやりしていたから、くっきりとした光の線がほ...
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文具探しの一人旅 season-2-5

第5話|景色のあと、佐渡の万年筆夜明け前の東京駅。始発の新幹線に揺られ、新潟港からフェリーで佐渡へ渡る一泊二日の旅。この夏は、まだ終わらない。けれどその途中に、小さな風景をひとつ残しておきたくなった。両津港に着くと、風がほんの少しだけ海の匂...
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文具探しの一人旅 season-2-4

第4話|潮風のことば、銚子のハガキペン朝早く、東京駅のホームに立つと、ほんの少しだけ風が涼しかった。それでも夏はしっかりと街に張りついていて、電車の窓を叩く光がまぶしく感じる。今日は日帰りで、千葉の銚子へ向かう。海が見たくなったのと、もうひ...
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文具探しの一人旅 season-2-3

第3話|湯気のことば、熱海の筆「暑い日こそ、温泉に行きたいんですか?」同僚にそう言われて、ちょっと笑ってしまった。けれど、そう。冷房の風に頼りきった体が、どこか奥のほうでずっと冷えたままな気がしていた。東京駅から新幹線でわずか50分。熱海へ...
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文具探しの一人旅 season-2-2

第2話|呼吸をする鉛筆、奥多摩の森で暑さが街にこもる夏の午後、私は東京駅から青梅線に乗り継ぎ、奥多摩を目指していた。エアコンの効いたオフィスに居続ける日々が続く中で、ふと「深呼吸したくなるような空の広い場所に行きたい」と思った。できれば、パ...
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文具探しの一人旅 season-2-1

第1話|波の記憶、鎌倉とインク東京に越してきて、ひと月。部屋にはまだダンボールがいくつも残っている。けれど、なんとなく心がざわついて、片付けを放り出したまま、ふらりと鎌倉に向かうことにした。都心の夏は、コンクリートの照り返しが強すぎて、言葉...