ノート

文具小説

文具探しの一人旅 season-1-6

第6話|まっすぐを測る、木の定規大阪から特急列車に揺られて、長野県の松本に着いたのは、昼を少し過ぎたころだった。ここは山に囲まれた町。駅に降り立つと、澄んだ空気が肺の奥にまで届く感じがした。今回の旅の目的地に松本を選んだのは、ふと雑誌で見か...
文具小説

文具探しの一人旅 season-1-5

第5話|記憶を削る、レトロな鉛筆削り伊丹空港のロビーで、ふと「旅慣れてきたな」と思った。搭乗ゲートの先には、長崎行きの便。今回は飛行機だ。飛び立つ時間が、旅の輪郭を少しだけ強調してくれる。いつもより少し高い空から、窓の外を眺めていた。白い雲...
文具小説

文具探しの一人旅 season-1-4

第4話|暮らしをくるむ、デニムのペンケース大阪に戻ってきた朝、部屋の机に並べた3本の筆記具を眺めていた。ガラスペン、竹の筆、金箔の万年筆。それぞれが静かに、その旅の空気をまとっている。けれど、使い始めるには少しだけ、勇気がいる。どの道具も「...
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文具探しの一人旅 season-1-3

第3話|金箔の光、言葉の重み敦賀駅で乗り換えて北陸新幹線で金沢に向かう道中、窓の外をぼんやりと眺めながら、前日に京都で出会った竹の筆ペンの感触を思い出していた。言葉は、ただ書くものじゃない。ときには、静かに手のひらに包むものなのかもしれない...
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文具探しの一人旅 season-1-2

第2話|静けさの筆、祇園の路地で京都駅に着いたのは、午後の早い時間だった。大阪から電車でほんの30分ほど。けれど街の空気は、がらりと変わった。背筋がすっと伸びるような、静けさと気配。季節は同じ春のはずなのに、ここには時間の流れ方そのものが違...
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文具探しの一人旅 season-1-1

第1話|春の風、ガラスペンと喫茶店春の大阪は、人も風も、どこかせわしない。けれど、そのざわざわの中に、ほんのりとしたやわらかさが混じっているのが、不思議な魅力なのかも。朝の新幹線で大阪に着いた私は、大阪駅の人波に流されるようにして、街を歩き...