文具小説

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文具探しの一人旅 season-2-10

第10話|書きかけの東京ノート東京の夏は、まだ息づいている。9月半ばだというのに、ビルの谷間には熱がこもり、秋の気配さえ感じられない。旅から戻った日常の中で、私はふと、また文房具屋に立ち寄りたくなった。場所は、神田の路地裏。前に通りかかった...
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文具探しの一人旅 season-2-9

第9話|削るように書く、伊豆大島のメモペン竹芝桟橋から高速船に乗り、伊豆大島へ向かう。東京を出て、海の上をまっすぐ進むだけで、空の色が少しずつ変わっていくのがわかる。この旅は、ほんの少し重たい記憶を、どこかに残すためのものだった。大島の港に...
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文具探しの一人旅 season-2-8

第8話|風のまわりに、葉山のスタンプ逗子駅で電車を降りて、バスに揺られながら葉山方面へ向かう。車窓の向こうには、ゆるやかな海の気配と、少しだけ秋の色をまといはじめた空。今日は日帰りの旅。誰かと話すでもなく、何かを書くでもなく、ただ風を感じる...
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文具探しの一人旅 season-2-7

第7話|ゆらぐ気持ちと、草津の硝子筆東京の朝はすでに蒸し暑く、アスファルトの照り返しに目を細めながら、上野駅から特急に乗った。向かうのは草津。温泉で有名なこの地に、湯けむりのようににじむインクの筆記具があると聞いた。“曇りガラスの万年筆”—...
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文具探しの一人旅 season-2-6

第6話|ひかりの跡、甲府の蛍光ペン甲府の夏は、東京よりもひときわ眩しい。駅を出た瞬間、空の青さと日差しの強さに、目を細めてしまう。けれどそのまぶしさが、今の私にはちょうどよかった。なんとなく心がぼんやりしていたから、くっきりとした光の線がほ...
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文具探しの一人旅 season-2-5

第5話|景色のあと、佐渡の万年筆夜明け前の東京駅。始発の新幹線に揺られ、新潟港からフェリーで佐渡へ渡る一泊二日の旅。この夏は、まだ終わらない。けれどその途中に、小さな風景をひとつ残しておきたくなった。両津港に着くと、風がほんの少しだけ海の匂...